Keyboard shortcuts

Press or to navigate between chapters

Press S or / to search in the book

Press ? to show this help

Press Esc to hide this help

なぜ作ったか

小説本編はこちら → 失敗者の告白 | GitHub

馬場祐平といいます。この小説の作者であり、「AI小説オープン共創プロジェクト」の発案者です。

僕は、この小説の本文を1文字も自分では書いていません。全文をAIが書きました。それでも、作者は僕です。

なぜかというと——20万字の長編小説(AIが100%書いた長編ビジネス小説として、おそらく日本初&世界初)として成立させるために、キャラクターとその行動原理と生まれ育ちを設計し、ストーリーの骨格を組み、文体のルールを言語化し、ビジネス小説としてのコンテンツを作り込み、生成されたものを読んで「これじゃない」と言い続けながら、フィードバックと再生成を繰り返しました。そうやって、原稿を4週間で20バージョン以上作りました。つまりほぼ毎日、作っては壊すサイクルを回し続けた。

そういう人間のことを、AI時代の小説創作における作者と呼んでいいと思っています。

このページでは、なぜこのプロジェクトを始めたのか、どんな経緯でこの形になったかを書いています。


沖縄から帰った翌日

2026年2月2日の朝のことです。

とある集まりで滞在した沖縄から帰ったばかりで、頭の中にぼんやりとした確信がありました。その前にしばらく滞在した南台湾、そして沖縄での時間を通じて、自分が立ち上げた2社での事業がうまくいかなかった根本的な仕組みが見えてきた感覚がありました。なぜ自分が失敗を繰り返してきたのか。その構造に、初めて自覚的になれた気がした。42年の人生を総括する気持ちで、何か形にしたい。エッセイ的なビジネス書を漠然と考えていました。

その数日前、共同制作者となるK氏に連絡しました。K氏は以前から、僕の書籍3冊に編集協力という形で関わってくれていた古くからの友人で、かつ直近でプロの小説家としてデビューした人物です。実は別件でのアポイントがあったのですが、その場でプロジェクトの相談をぶつけたところから、一緒にやることになりました。

午後、キックオフミーティングを開きました。

K氏: 誰に届けたいですか? 具体的な一人の人を想定してみてください。

馬場: 20代後半くらいの、営業かコンサルかそのへんにいる人かな。仕事で詰まってる感じがあって、でも何がダメなのかよく分かってない、みたいな。

K氏: ターゲットが絞れてきましたね。形式は新書をイメージしています。「嫌われる勇気」くらいのレベル感で、専門的になりすぎず、広く届く本。

馬場: 新書か……。いや待って、物語という形もあるんじゃないかな。

その後の会話の中で、物語という形の方が、学びを「体感温度で届けられる」という確信に変わっていきました。この会話から24時間で、プロジェクトの形が決まりました。


タイトルが生まれた瞬間

翌2月3日、2回目のMTGで、タイトルの話になりました。自分の書棚を眺めながら僕は言いました。

馬場: 日本で流行ったビジネスの物語っていうと、たとえば藤田晋さんの「渋谷で働く社長の告白」って読みやすくて人気あったよね。告白の系譜をたどれば神田さんの「成功者の告白」もある。ちょっと古いけど。

K氏: 神田昌典の「成功者の告白」は面白かったですね。仕事だけじゃなくて、プライベートの面も描かれてて。

馬場: むしろ「失敗者の告白」は? 俺は神田さんと違って成功者じゃない。でも、失敗の数と質なら自信ある。笑

K氏: 「失敗者の告白」みたいなタイトルは面白いと思いますよね。ネガティブなほうが人の関心を引く。

馬場: 「失敗者の告白」——これでいこう。

タイトルが決まった瞬間でした。


「失敗者」とは誰のことか

「失敗者」という言葉の起点は、著者である僕自身の失敗です。そして、その根っこには、一緒に夢を追った仲間(たち)や、夢を信じて一緒に歩んでくれた人たちへの想いがあります。

それは、普段は僕のうちに個人的に秘められた想いです。それを正面から語っても、おもしろくない。そんな想いを、物語の登場人物に託しました。

この小説には、物語の語り手が、かつての仲間に向けて告白の物語を書く、という構造があります。主人公への告白を物語として書きながら、その物語そのものを昔の仲間に手渡す——そんな風にして最後の場面が終わります。

告白は、必ずしも相手に伝わらなくていい。でも、告白する行為そのものが、前に進む力になる——というのが、物語のもう一つの層です。

物語の中では登場人物全員が、ある意味で失敗者です。

重要なのは、失敗とどう向き合うか、だと思います。失敗を前にして立ち止まるか、それとも次の挑戦につなげるか。登場人物たちはそれぞれ違うパターンで変化していきます。

歩みを止めなければ、失敗は挑戦に必然的に伴うものです。誰かに「失敗だ」と言われても、後悔を含めて未来のエネルギーにしていけるなら、それは失敗ではなくなる。そんな葛藤のプロセスを経て、登場人物は物語の中で成熟していきます。

それは、僕が自分の失敗を通じて経験してきた葛藤のプロセスの表現でもあります。


世界で最初の読者

3月2日。プロジェクト開始から4週間、v22まで書き上げたところで、初めて「部外者」に読んでもらうことにしました。

とあるHR系の会社に勤める20代の知人の女性でした。この小説の舞台となるのは、人の「キャリア」を扱う人材紹介を行っている会社であり、登場人物の多くは20代です。ターゲット読者のど真ん中にいる人物に、最初に読んでもらいたかった。文字通り、最初の読者です。

フィードバックが来ました。

「すごく面白かったです。登場人物たちを見ていると、自分の中にも同じような感情がある、って気づいて。なんか内省できる感じがして……。」

めちゃくちゃ嬉しかった。想定していた読者像の人が、最初の一言でそう言ってくれた。

ただ、指摘も鋭かったです。

「業界の中に、描かれているほどきっちり求職者のキャリアに寄り添うマネージャーって、実際なかなかいないと思うんですよね。もっとリアルな葛藤があった方が、業界の人に刺さると思います。」

「あと、『相手のOSを考える』っていう描写が、もう少し深いとよかったな。求職者の側の背景みたいなものを、もっと見せてほしかった。」

このフィードバックは、翌日のv23改稿にそのまま反映されました。そしてフィードバックの最後に、こう言ってくれました。

「AIが書いた小説なのに、面白かったです。なんか……AIが好きになれる小説かもしれない。」

技術の話でも方法論の話でもなく、「人が何かに気づく瞬間」を作れるかどうか——それがこの小説のいちばん大事なことだった、と改めて思いました。

そしてこのフィードバックを受けてv23を改稿できたこと自体が、このプロジェクトの仕組みをそのまま実証していました。

こうして出来上がったv23を、僕は「初版」として公開することにしました。プロジェクト開始からは4週間が経っていました。


なぜオープンソースで公開したか

実際に作ってみて実感するのは、AIを使って小説を書くことの面白さは、「楽に書ける」ことではありません。むしろ逆です。

この28日間は、設定を作り込み、生成物を読んで共同創作者とレビューし、また書き直す——その繰り返しで、従来の書き方では(少なくとも僕には)絶対に作れなかった小説が生まれた。AIがあるからこそ、読者からのフィードバックも翌日の改稿に即座に組み込める。創作のスピードも、方法も、根本的に変わっています。

ある意味、タフな仕事です。

でも、その一方で、新しい魅力や可能性が詰まっているとも思います。

これまで小説というのは、著者が一人で閉じてやる作業になりがちでした。書いては直し、直しては書く、その全プロセスが1人の著者の手の中にある。良さもあるけど、時間もかかります。

プロの作家なら出来上がった原稿に編集者がアドバイスをくれるかもしれない。でも、それを原稿に反映させるのは、孤独な著者の営みです。

だから、複雑な作品を多くの人のフィードバックで磨き続けることは、これまで現実的には不可能でした。もしやろうとしても、ひとつの作品を結実させるまでには数年単位の「人生を捧げる覚悟」が必要でした。

でも、今なら、GitHubがオープンソースのソフトウェア開発を変えたように——1人の著者が閉じて書くのではなく、多くの人が一緒にアイデアを連鎖させながら作品を育てていく。そういう小説の作り方ができるのではないか。

そして、もう一つ。プロの小説家でもあるK氏が、あるセッションでこう言いました。

「文章のうまさはもういらない、と思い始めています。」

約20年、文章を磨き続けてきた人間が言う「文章のうまさはもういらない」。では何が小説に必要なのか。

「アイデアです」と、彼は即座に言いました。

設計が正しければ、AIは文章を書ける。問題は「何を書かせるか」であって、「どう書くか」ではない。文章のうまさは、すでにコモディティ化した。あるいは、少なくともコモディティ化しつつある。では何が価値になるか。それが「アイデア」だ。そういう意味の発言だったと僕は解釈しています。

僕の考えでは、アイデアとは、単なる思いつきのことではありません。創造する過程で、瞬間瞬間に生み出される「それまでには考えていなかったことのすべて」です。たとえば、登場人物の内面や行動の変化や、その描き方。あるいは「公開型で小説を作れるんじゃないか」という突拍子もない思いつき。

執筆の途中で生まれるそうした「アイデア」は、その閃きによって生じるエネルギーによって次の創造を促します。その次の創造を実際に行うことで、さらなる「アイデア」が湧いてくる。

そんなアイデアの連鎖を一人で閉じず、他者との共創(Co-Creation)でどんどん増幅させていけること。それが、AI時代の創作の醍醐味じゃないか。この4週間での経験から、その可能性にワクワクした。

だから、この作品の設計ファイルも、長編小説の作り方(ワークフロー)も、ストーリーの骨格も、全部公開することにしました。

設計ファイルを使って自分の小説を書いてみたいなら、自由に使えます。僕の作品を読んでいてどこか引っかかる部分があれば、GitHubのIssueで教えてもらえると助かります。誤字を見つけたなら、PR(Pull-Request)を送ってもらえれば、「失敗者の作品」の本編に取り込ませてもらいます。

この小説は4週間で書き上げ、そこからさらに4週間(3月末まで)、外部の人も巻き込んだ公開型の推敲プロセスを進めています。執筆で終わらせず、オープンに磨き続けることもこのプロジェクトの設計の一部です。

2026年3月31日まで、公開修正期間として積極的に改稿を続けています。4月以降に正式版のリリースを予定しています(現在はベータ版)。 IssueやPRが来ればそれも反映した上で、正式版に仕上げます。


このプロジェクトがどう動いているか、もっと知りたい方へ。